柴ミックスを保護した昨日は行きそこなった動物病院に、今日こそは・・・と向った。家を出発し、昨日保護した場所に差し掛かった時、速度を落とし、ざっと現場検証する。昨日もあった中身の入っていないキャップの付いているペットボトルと、中身の入っていない紙パックは落ちている(これはこの子のものと思われる歯形が付いていた)。その傍らに、昨日の記憶では薄かったのだが、やはりダンボール箱が一つだけあった。
ダンボール箱にゴミを入れて不法投棄した形跡では無く、中身が入っていないダンボール箱がこの所の雨によってびっしょりと濡れ、濡れた事によって箱が潰れた様子が伺えた。
もしかしたら、この柴ミックスの子はあのダンボール箱に入れられ、ここで捨てられたのかもしれない。幼く、一人ぼっちだから他に行き場が無く、そのままこの場所に留まっていたのかもしれない。診察時間があるので、ダンボール箱そのものを検証するのは止め、病院を目指した。
この子は自らバリケンネルに、なかなか入ろうとしない。箱に入れられて捨てられたのであれば、箱状のものに入るのはむしろ『怖い&不快&一人ぼっち』というトラウマにより入りたくなくて当然なのである。
サイズ100のバリケンネルが車内に2つ。一つには子ネコの姉弟が。もう一つには柴ミックスの仔犬が入っている。いずれも落ち着いた様子。いや、子ネコの姉弟は車とかドライブとかそんな事はお構いなしに、ずっとプロレスごっこをしている。二匹で遊び飽きると、バリケンネルの目の前にあるアンブロシアさんの尻尾を叩いて遊ぶ。この子達のお陰で私はネコについてもかなり勉強をさせて貰った。ネコ達も社会勉強の必要な時期があるという事や、ヒトや他の動物と暮らす事を教えると、かなり沢山の事を学習するのだという事を。
病院に到着する。道中、ドライブで踏ん張ってしまったからなのか、バリケンネルの中でウンチをしてしまった柴MIXの子をキレイにし、バリケンネルの中を清掃する。診て頂く頭数が多い時には、車内にイヌ達を残したまま、先ず診察券だけを出す。今回は受付でこう記入する。
* 子ネコ2匹・・・追加の混合ワクチン接種
* アルキメデス・・・相談
* 新規・・・問診・その他
他の来院の順番を考えると、あまり待たなくても済みそうだったので、ゆっくり車からバリケンネル2つを待合室に運び込み、最後にアルキメデスを連れて来る。リッちゃんとジャックの里親募集のポスターに貼ってある連絡先を記述した付箋の数は一向に減る気配が無く、苦笑する。リッちゃんはともかく、ジャックは闘犬種という事もあって、早々ご縁が発生する・・・なんて期待はしていないのだが(生涯、私が飼育する覚悟という意味)、リッちゃんは一頭だけの飼育をされると、とても扱いやすいお嬢さんである為、良い縁があってもいいのだけどなぁ。。。と少々うな垂れたりする(苦笑)。
こうしてシーズーちゃんが居なくなった途端に柴ミックス・・・と、今年に入ってから予測していた(感が働いていた)通りに、立て続けにイヌ(ネコも)を保護している。落ち着いた子から順次ご縁が発生すれば、私一人で行っているこのシェルター&保護活動もなんとか上手く回転して行くであろうが、ただ保護ばかりを一方的に行い、迷子を受け入れ詰め込んでしまっては、逆に良かれと思ってしている事が無意味となってしまう。
どのイヌもある程度平穏で、ある程度の程よい刺激がある位なら大した問題は発生しないのだが、ヒトの手が不足するという事は、グルーミングも手抜きになり、その他には肝心の躾け直しが捗らなくなっても行くという悪循環が発生する。
そうすると今後は遺棄されたイヌを見かけ、保護するチャンスがあるにも係らず『無視』しなくてはならないという事なのだ。これはかなり辛い事。保護し、心身ともに健全になり、自分らしさを取り戻して生き生きと復活する彼らを見過ごす事は、本来なら私には出来ないだろうが、諦めざるを得ないという事か。。。
そう苦悶していると、顔馴染みの看護婦さんが待合室まで出て来て私の前で立ち止まった。
「ネコちゃんたち、大きくなりましたねぇ♪今度はどんなワンちゃんですか?」
とバリケンネルを覗き込んで声を掛けてくる。私の次の順番の方は短時間で終わる診察だそうで、順番を交代させて欲しいとの提案があった。別に不服は無い。何故なら別段私がいつも、保護イヌまで連れて来て大枚をはたく『上客』という訳ではけして無いから(笑)。保護したイヌで、遺棄されたイヌでもあるとなれば、理解ある&獣医師としての使命感を持ち続けている先生であれば、費用はディスカウントをして下さるからだ。しかし、それは私が「保護したんです~」というウソを毎回付いていない証拠がれっきとした証拠として、目の前のイヌに証明されるからである。
順番を交代してしばし待っている間に、午前中の診察時間に滑り込みで3組程の来院がある。待合室では初対面同士で会話に花が咲く事もあるが、そうでない時もある。黙って座っていたその時、ジャックラッセルテリアの仔犬を連れたご夫婦が、アルキメデスを見て話しかけて来た。
「シュナウザーですよね?何キロ(体重)位あるんですか?」
「だいたい7キロぐらいですよ。」
「結構、大きくなるんですね。実はうちの子、ジャックラッセルテリアとミニチュア・シュナウザーのMIXなんですよ。だから、どの位の大きさに成長するのかなと思っていたんです。なるほど~。この位にはなるのかしら。」
「なるほどぉ。この子は7キロぐらいですけど、この子の母犬は6キロぐらいですよ。今、車内で待たせていたので入られる時にもしかしてお気づきになりまでんでしたか?ミニチュア・シュナウザーの場合には、大体そういう体重だと思いますよ。」
「ラブも乗っていた車ですか?何匹飼っていらっしゃるんですか???」
「え~・・・・今は、イヌが7匹に、ネコが2匹です。」
「スゴイですね!!!」
そしてご夫婦同士が英語で(ご主人は外国の方。奥様は日本人というご夫婦)あ~でもない、こ~でもないと会話をし、また話しかけてくる。結局、何故私がそれだけの数を飼っているのかという話や、待合室に貼ってあるポスターを見ながら会話が弾む。ご主人は時折英会話を織り交ぜて話すので、いつしか私も所々英語を使って会話をするが、いかんせん大した英会話力でも無い為に、奥様の通訳とご主人の感の良さに助けられつつ会話を進めた。
ご主人はイギリスの方だそうで、イギリスではミニチュア・シュナウザーを見た事が無かったとおっしゃっている。またオーストラリアン・シェパードのリッちゃんのポスターの写真を見ながら、このイヌも見なかったと思うとも語る。そしてとても美しい犬種だね、とも絶賛していた。そして目線がジャックのポスターへと移り、何犬かと聞いてくる。
アメリカン・ピット・ブル・テリアだと答えると、そのご主人は絶句してしまった。
「ピット・ブル???ホントに???そうか、日本では飼ってもいいんだ???」
頷くとご主人は機関銃の如く奥様と私に話し始める。
「イギリスでは飼育禁止なんだよ、この犬種。物凄くパワフルで、危険だという事でダメになったんだ。」
「あっ、そうそう。イギリスではそうなんですよね。他の国でも飼育禁止になっている所があったと思いますよ、確か。」と答えると、奥様も、待合室でこの会話を聞いていた他の方々も目を見開いてとても驚いた。興味の対象に入っていない犬種だったりすると、やはりあまり耳にしないし目にしない話題なのだろう。
「この子も保護したの?なんで?」とご主人から矢の如く質問を浴びる。
「元の飼い主さんがご年配の方で、この子をとても愛していたけれど、体力的にこの犬種のスタミナとパワーを扱いきれずに、アルファシンドロームにしてしまって、反省して手放されたんです。それを躾け矯正しました。今ではすっかりグッド・ボーイですよ。」
周囲は胸を撫で下ろすかの様な「ホッ」とした表情に変わる。今日は連れて来て居ないのだから、そんなに怯えなくても・・・と苦笑しつつ、ご夫婦と会話を続ける。
「イギリスで飼育禁止になったのは、公園で7歳の子供の頭部に噛み付き大怪我をさせた事件があったからなんだよ。頭部が完全にメチャクチャに噛み砕かれたそうで、当時物凄い話題になった問題だったんだ。」
私もそういう詳細は知らなかったが、その性質には十分に納得が行くと返答した。しかし、アメリカン・ピット・ブル・テリアはとてもスマート(頭が良いの意)な犬種だから、正しく接して躾ければ素晴らしいイヌになるのだと説明を補足する。また私も聞きかじりの話題だがアメリカだか何処かの国ではこの犬種が救助犬として認定されているという実績もあるそうだと付け加える。確か一頭だけだそうだとも。
そうして待合室で盛り上がっていると順番がやって来た。診察室にバリケンネル2つを運び込み、アルキメデスを連れてドアを閉めると、先生の背後には見慣れない男性が二人立っている。先生の所にも研修医が来るのかな?と思っていると、真っ先に先生はこう説明された。
「○○中学校から見学に来ている学生さんです。良かったら見学させて下さい。」
言われて見れば、確かに顔が若い男の子。服装も良く見れば揃いのジャージ姿ではないか。なるほど、なるほど。昨今ではこういう少人数での見学みたいな事も教育の一環として行われているのだろう。そんな訳で、先生も『動物病院』をテーマに選ばれたという嬉しさがあったのか、いつもにも増して丁寧ではっきりした口調で問診を始めた。なんとなく私も先生のその言動につられて返答をする。二人とも青少年の手前、クソ真面目な状態・・・といった所か(笑)?
そして彼らの見ている位置からは見え難いであろうと思って、先生も私も診察台を挟んで立つ位置を何時もより意識してずらす。
先ずは、三毛の♀の子ネコの体重を計ると、1.35kg。体温も平熱で異常なし。耳も目も歯も異常なし。追加接種の4種混合ワクチンを打って頂く。
次に、茶トラの♂の子ネコの体重を計る。1.60kg。こちらも体温は平熱。耳も目も歯も異常なし。先同様に4種混合ワクチンを済ませる。
先生が前回の二匹の体重を見ながらこう付け加える。
「前回から一ヶ月経ってはいないけど、三毛は450gで、茶トラは600gの体重が増えていますね。通常、平均すると450g/1ヶ月というスタンスで増えて行くんですよ。でも、別に異様に太っている様子でも無いし、二匹とも健康状態に異常は診られないので、問題は無いでしょうね。単に育ちがいいといった所でしょう。」と笑う。
そしてアルキメデスを診察台に乗せると、体重は7kg。
「相談って、どうかしましたか?」と見た感じ何の異常も見当たらない為に先生は首をかしげた。今回は『交配・出産』について教わりたいと伝える。私の持っているそれらに関する書物では「血統の遺伝型をみる」とか「遺伝子型(形質)を調べる」とか、「染色体を調べる」といった事柄が書かれていた話をする。アルキメデスをお婿さんとして先日出逢った方のお宅のお嬢さんと交配すると仮定した場合、計画的に生まれてくる子犬に遺伝性疾患が伝わらない交配を出来る限り選択したい(劣性遺伝が伝わる可能性が高いのであれば交配を諦めるという意味)と思った為、予め検査し判別できるのであればそうしたいという事や、それらの検査はどういったものであるのか?等を教わりたいと付け加えた。また更に繁殖について詳しい専門書があれば紹介して頂きたいとも。すると先生は苦笑しつつ答える。
「繁殖については、私は一切判りません(笑)!今までそういう必要が(一般的は開業医であった為)無かったという事もありますが、大学の獣医学部で繁殖についてのそういった内容・分野を学ぶ授業は無かったんです。多分、今も無いのではないかなぁ?とにかく遺伝子型の検査って・・・?本を見せて頂けますか?」
要所に付箋を貼った本を手渡すと先生もうなりながら目で文字を追う。そして私とは異なる視点で本に書かれるメッセージを読み取って下さった。
「この本って、専門分野ごとに数名の獣医師で書いてるでしょ?おまけにその獣医師の連絡先もあるし。記述している記事ごとに先生の名前も書かれているから、直接判らない所を聞いてみるっていう方法もある。消して失礼じゃないと思うよ。こうして名前も連絡先も明らかにしているからには、むしろ質問が来ればそれは嬉しいかもね。不愉快とか迷惑ではないよ、きっと。」
なるほど確かに、言われてみると記事ごとに獣医師の名前が書かれている。ならば、判らない事は書いている当のご本人に伺ってしまった方が早いではないか。という事で、何もされる事無くアルキメデスはあっさりと診察台から降ろされる事となる。
いよいよ最後に柴ミックスちゃんを診察台に乗せる。口には口輪を装着してある。昨夜の状態では、まだ先生に噛み付く恐れがあるからだ。ざっと保護状況と、事情、及び私の所見を説明すると、先生は丁寧に診察を開始する。この先生は、私が保護したイヌを連れて行く度に、一生懸命に診て下さるのだ。むろん、私の素人所見も頼りにしなくては短い時間で診察する事は難しい。し